090126 Nose Kuchikata Jass Final

  • April 2020
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  • Words: 828
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様態表現が適切に翻訳されないときに現れる文法的及び語彙的特徴:日本語,英 語,ドイツ語,ハンガリー語とフィンランド語のパラレルテクスト研究 野瀬昌彦(麗澤大学),朽方修一(テュービンゲン大学大学院) 

1.  はじめに 類似の意味を主として表す表現形「N のように」(N  は名詞,または名詞句)は,副詞的構文のひとつである. この形式は「A は B のように―である」と,A を B で もってその様態を例える表現であるが,近年まで研究が あまりなされてこなかった構文形である.本発表では, 名詞を類似・様態に例える形式「N のように・N のよう な・N のようだ」に着目し,日本語,英語,ドイツ語, ハンガリー語とフィンランド語のパラレルテクストを使 用した対照研究を行った(霜崎 2007,  野瀬  &  朽方  2008).「A は B のようだ」の場合,「例えられる対 象 A」と「基準 B」が存在し,両者を結びつける「基準 マーカー(日本語では「よう(に)」)」が必要となる. この構文形はいわゆる比喩表現の直喩に相当するが,本 研究ではその比喩の意味用法には触れない.数言語の同 等表現を翻訳文献を通して対照した結果,対照研究の事 例として採用できるデータが得られた(野瀬  &  朽方  2008)一方で,翻訳の問題,各言語特有の文法の差異に より,事例として採用できないデータが得られた.本研 究では,後者の採用しがたいデータに着目し,その特徴 を文法的な面と語彙的な面に分けてまとめ,その原因を 明らかにし,対照言語学的な考察を加える. 本研究では対照研究する言語として,日本語をはじめ とし,英語,ドイツ語,ハンガリー語とフィンランド語 を選んだ.英語とドイツ語は印欧語に属し,ハンガリー 語とフィンランド語はフィン=ウゴル語に属す.それら に日本語を加えることで,3 種類の異なる語族の言語を 対照する.それにより,様態表現に関する言語・語族ご との相違を明らかにする.  2.  理論的前提と調査対象 あるものを他のもので具体的に例える場合,日本語で は類似を表す様態表現「-のように」が使用される.こ の種の表現は比喩表現の一部であるが,あるもの(対 象)を「-のように」と別のもの(基準)で例える.こ れは,いわゆる直喩に属する.意味論的な研究ではなく, この種の構文として研究はあまりなされていない.ただ し,日本語を扱った前田(2006),主に欧州の言語を類型 論的に分析した Haspelmath & Buchholz (1998)がある.本 節では,先行研究の内容と類似表現を扱う参与者や形式 を紹介した上で,本研究が実施したパラレルテクストを 使用した対照研究の手順を紹介する.  Haspelmath & Buchholz (1998)では,(1)のような比較,

同等,様態構文に関与する者を挙げている.(1)の参与 者を実際の例(2)では以下のように示される.  (1)  Parameters on comparative construction:  1  CMP  comparee:対象  2  PAM  parameter marker:変数マーカー  3  PARA  parameter:変数  4  STM  standard marker:基準マーカー  5  STAN  standard:基準  (2) English equative:  My sister is 

as  pretty  as  you. 



2  3 

4  5 

本発表では,(1)の枠組みに基づき,様態表現「N(N  は名詞・名詞句)のように・N のような・N のようだ」 という形式に注目する.日本語の様態構文に対応させる と(3)のようになる.  (3)  彼らは羊と同じように,(略)働いてきた(A13)  ­  対象:彼ら  ­  基準マーカー:と同じように  ­  基準:羊 この際,例えられる対象と例える基準,そしてその様態 表現に使用される基準マーカーが関与している.これに 関して,パラレルテクストを使用した対照研究を行う. 調査する題材として,パウロ=コエーリョ(Paulo Coelho)  の『アルケミスト』(O Alquimista, 1988,  原題はポルト ガル語で書かれた)の日本語,英語,ドイツ語,ハンガ リー語とフィンランド語版を使用する.各言語において 様態表現を表す形式と意味・機能について観察する. 日本語の「ように」に関しては,前田(2006)による先 行研究が存在する.前田によると,「ように」には,全 体的に以下(4)に示す 4 つの機能が存在する.さらに, 「ように」の前に名詞・名詞句を取る「N のように」に 限定すれば,(5)のような意味機能があると主張してい る.(5)では,実際の「アルケミスト」日本語版から, 前田の指摘に相当する例文(下線は筆者)を挙げた.  (4)  前田(2006):「ように」の意味機能 4 つ 類似事態 結果・目的 思考・知覚内容 命令・祈願内容

(5)  前田(2006:33­36)に基づく「N のように」の意味機能 様態,比喩,同等(意味的な事実性,実現性で分 類している)  a.  半分独り言のように言った(A83):様態  b.  まるで千夜一夜物語のようだ(A104):比喩  c.  彼もまたお前のように(略)よそ者だった(A125): 同等 思考・知覚内容:思考・知覚の動詞と共起  d.  あまり意味のないことのように思われた(A28)  e.  イギリス人と同じような本の虫に見える(A81) それ以外  f.  元のようにキャラバンを観察(A99):慣用用法 前田(2006)では,日本語学の立場から「ように」の形式 を明らかにしようとした.そのために,「ように」を複 文の従属節として捉えている.本研究では,Haspelmath  & Buchholz (1998)と同様に,「ように」の形式をむしろ 比較構文等を含む副詞的構文の延長線上で捉える.  2.1.  調査手順 方法としては,手作業によるテクスト探索を,日本語 を中心に,各言語で行った(日本語とドイツ語は朽方が, その他は野瀬が行った).パラレルテクストを対象とし た意義や研究上の利点は,Cysow & Wälchli (2007),霜崎  (2007),Stolz (2007)に詳しい.手順としては,まず,日 本語版で「N のように・N のような・N のようだ」の例 を収集する.この場合,「彼らは羊と同じように (A13)」に見られる「羊と同じように」は「羊のよう に」と解釈し,本研究の調査対象とした.ただし,「勉 強するように」や「白だったように」のような,名詞句 以外の節を結合する「ように」の形式は本研究では取り 上げない(念のために頻度は数えた).日本語の表現に 対応する各国語の表現形式を収集し,まとめた.本研究 でまず数えた形式は以下(6)である.  (6)  「アルケミスト」日本語版で数えた形式: かのようだった,する(しない)ように,するような, と同じように,と同じような,のように,のような, のようだ,するかのように,する(しない)ようだっ た,どのように,というような,しようとする  (6)で示す対象とした形式のうち,本研究が注目するの は,下線の形式である.次にこの下線の例に関して,英 語,ドイツ語,ハンガリー語そしてフィンランド語でど のように翻訳,表現されているかを調査しまとめた.  3.  パラレルテクストによる調査とその結果 「アルケミスト」日本語版において,(6)で示した 「ように」の形式が 166 例観察された.この中には本研 究の「N のように」以外の用法(結果,命令等)が含ま

れるため,(6)の下線部分以外の形式,つまり,名詞・ 名詞句と共起しない形式を除外した.その結果,「N の ように」に相当する形式 38 例を得ることができた. これらの 38 例に関して,英語,ドイツ語,ハンガリ ー語そしてフィンランド語で翻訳され表される形式を調 査した結果,すべての言語に日本語の「ように」に相当 する基準マーカーが存在することが判明した.本研究で は,日本語の相当部分が,他言語において基準マーカー を使用して翻訳されている例を理想的に表現された形式 (理想形)と呼ぶ.理想形の例を以下(7)に示す.  (7)  (A63)  ­日本語:「おまえさんもわしも、ハッサンのような金 持ちの商人ではない.」  ­英語:You and I aren't like Hassan, that rich merchant.  ­ドイツ語:Du und ich, wir sind nicht wie der reiche  Kaufmann Hassan. ..."  ­ハンガリー語:Egyikünk sem olyan gazdag, mint Hasszan,  a kereskedo".  ­フィンランド語:Sinä ja minä emme ole kuin Hassan, rikas  kauppias.  (7)において,日本語では「ハッサンのような金持ち」 と「ような」形が基準マーカーとして機能しており,対 象「おまえさんとわし」が基準「ハッサン」でもって変 数「金持ち」が表現されている.この形式は(5)の分類 で様態の意味,特に同等を含意する.以下(8)に各言語 で使用される基準マーカーを示す((7)の下線部参照).  (8)  様態を示す基準マーカー:理想的な対応  ­日本語:  N のような  ­英語:  like N  ­ドイツ語:  wie N  ­ハンガリー語:  mint N  ­フィンランド語:  kuin N  (8)のような,すべての言語で理想的な対応を示したの は 38 例のうち 5 例しか存在しなかった.つまり,この ような理想的な対応は限定的で,各言語で異なる表現が 文法的,または語彙的に表現されているわけである. 次に,逆に理想的な対応を示さない例を挙げる.  (9)  (A81)  ­日本語:彼は自分がイギリス人と同じような本の虫に 見えるのはいやだった  ­英語:He felt that he didn’t want to do anything that might  make him look like the Englishman.  ­ドイツ語:Er wollte nichts tun, was ihn mit dem Europäer  gleich werden ließ  ­ハンガリー語:Nem szándékozott semmi olyasmit csinálni,  amiben hasonlítana ehhez az európaihoz.  ­フィンランド語:Hän ei halunnut antaa vaikutelmaa että  matki muukalaista.

(9)では,日本語版の「イギリス人と同じような本の 虫」に対して,英語では基準マーカー“like“が使われて いるが,他言語では別の基準マーカーを用いない形式で 表現されている.ドイツ語では,直訳すると「彼は、彼 をそのヨーロッパ人と同じにさせることは何もしたくな かった」と翻訳されている.ハンガリー語では,「ヨー ロッパ人と似ているもの」と動詞“hasonlit“(似ている) を使用して翻訳され,フィンランド語では,動詞  “matkia“(模倣する)を使用した形式となっている. 理想的に対応しない例をさらに 2 つ挙げる.  (10) (A129)  ­日本語:それは平和的な遠征隊のように見えた。  ­英語:  it appeared to be a peaceful expedition, but they ...  ­ドイツ語:  sie wirkten wie eine friedliche Expedition, ...  ­ハンガリー語:békés­nek látszottak, de fehér burnuszuk  alatt fegyverek rejto”ztek.  ­フィンランド語:Miehet olivat näennäisesti rauhanretkellä,  mutta jokainen piilotti asettan valkoisen kaapunsa kätköissä.  (10)では,ドイツ語で基準マーカー“wie“を使用した例が 出現するが,英語,ハンガリー語,フィンランド語には 基準マーカーが観察されない.英語では知覚動詞  “appear  to  be“の中に「ように」の意味が内含されている. ハンガリー語では「平和な人々のように」が理想形の基 準マーカー“mint“ではなく,与格“­nak“で標示されてい る.フィンランド語では,副詞“näennäisesti“(一見して, 見たところでは)が使用された表現となっている.  (11)    (A83)  ­日本語:「これは前兆かもしれない」とイギリス人は 半分独り言のように言った。  ­英語:“Maybe this is an omen“, said the Englishman, half  aloud.  ­ドイツ語:»Das soll vielleicht ein Zeichen sein«, sagte der  Engländer mehr zu sich selbst, so als ob er laut dachte.  ­ハンガリー語:“Lehet, hogy ez jel” – gondolkodott  hangosan az angol.  ­フィンランド語:“Ehkä tämä on enne”, englantilainen  mumisi ääneen.  (11)では,日本語の「独り言のように」が他言語では理 想形が一切現れない.英語では”half aloud”,ドイツ語で は,”als ob”を使用した「まるで-のように」という形 式で翻訳されている.ハンガリー語では,直訳すると 「声を出して考えた」とフィンランド語では「声を出し て+動詞”mumista”(つぶやく)」と翻訳されている. このように,理想的な対応をしない場合に現れる形式 を以下の(12)にまとめた.  (12)  理想的でない場合に出てくる形式  ­英語:as thin as のような同等構文,as if,知覚動詞  (appear, sound, hear)に統合,  ­ドイツ語:als(as), als ob(as if), nach(like):(klingen nach  N);知覚動詞「聞こえる」と共起), 

­ハンガリー語:hasonlóan N­hez  「に似ている」, mintha  (as if),  動詞に統合  ­フィンランド語:知覚動詞に統合,副詞 näennäisesti  「見たところでは」と共起 日本語の基準マーカー「ように」に相当する基準マーカ ーが(8)のように理想形が各言語に存在する.(8)では, 日本語「N のように」と基準が前に位置するのに対し, 他の言語は”like N”/”wie N”/”mint N”/”kuin N”と基準が基 準マーカーの後に出現する.ただし,このような理想的 な対応は 38 例のうち 5 例しか存在しない.つまり、パ ラレルテクストを対照した場合、必ずしも同等の文法形 式が外の言語で理想的に観察されるわけではない.理想 的な対応をなさない場合,他の文法的手段で表現される 場合と,語彙的な手段の場合がある.思考・知覚の意味 用法は,知覚動詞の中に「ように」の意味が内含され, 基準マーカーなしで表現されやすい.  4.  議論:文法的な観点と意味的な観点 本研究では,パウロ=コエーリョの小説「アルケミス ト」の日本語,英語,ドイツ語,ハンガリー語とフィン ランド語のパラレルテクストを対照し,直喩の様態表現 「-のように,-と同じように」に注目した.その形式 が各言語で翻訳される形式をまとめた.その際,文法的 に上手く対応して翻訳される場合と翻訳されない,また は語彙的、婉曲的に翻訳される場合があることが判明し た.特に適切に翻訳されない例に注目し,どのような方 策が取られるか,その方策に言語間に違いがあるか,各 言語に現れる違いが翻訳者の好みによるものか,それと も言語の文法や語彙に由来するものかどうかについて本 節で考察する.  4.1.  文法的な側面 野瀬  &  朽方  (2008)では,日本語の「N のように」に 関す対照研究で,(8)のように理想的な対応を示す形式 を観察することで,各言語に様態を表す基準マーカーが 存在することを指摘した.これはパラレルテクストを使 用した研究の利点を示したものであるが,その反面,  (12)に示される理想的でない対応については考察がなさ れなかった.この節ではパラレルテクストの対照で得ら れた結果から,理想的でない形式の分類と特徴づけを行 う.文法的な面から理想形でない例を見ると,以下のよ うな特徴があることがわかる. 日本語では現実的な関係と非現実的な関係両方が,形 式「ように」に取り込まれているが,他言語では英語 の”as if”やハンガリー語の“mintha”のように,非現実の 状況において別の形式が使用される.明らかな非現実の 比喩表現に関して,英語では”as  if”,  ドイツ語では”als  ob(+接続法)”,ハンガリー語では”mintha”,フィンラ ンド語では”kuten”と仮定法(接続法)で表現される傾 向がある.これは,各言語の文法的な相違に依るもので ある.また,思考・知覚の意味に関して,日本語である と「のように見える,のように思える」と基準マーカー と共起するが,他言語では動詞の中に取り込まれる場合

が多い(英語の”appear to be N”).一方で,基準マーカ ーの形式以外の前置詞や格で現れる言語がある.ドイツ 語では,”klingen nach N”(のように聞こえる)の場合, 前置詞 nach(基本義~へ)でもって基準 N がマークさ れる.ハンガリー語では”latszik N­nek”  (のように見え る)において,基準 N は与格”­nek”で標示され,フィン ランド語では,”nayttaa N+lta”(のように見える)にお いて,場所格”­lta”(の上から)で標示される.このよ うに動詞と共起する前置詞や格の選択が観察される.こ の格や前置詞の選択はむしろ動詞構造の問題である.も っとも様態や比喩の意味の場合,この種の動詞(思考・ 知覚)が出現しないため,前置詞や格が出現することは ない.さらに,思考・知覚の意味用法であっても(8)の 理想形が出現する例が観察された.  4.2.  語彙的な側面 次に,基準マーカーが使用されず,語彙的な方法で表 現する場合の特徴を,例(13)をもとに考察する.  (13) (A129)  ­日本語:かみなりのような音がした  ­英語:Suddenly he heard a thundering sound, and he was  thrown to the ground …  ­ドイツ語:Plötzlich vernahm er ein Grollen,  ­ハンガリー語:Egyszer csak valami feldübörgött, és egy  különös vihar szele folder döntötte Santiagót.  ­フィンランド語:  Yhtäkkiä hän kuuli jyrähdyksen ja  voimakas tuulenpuuska, jollaista…  (13)では,日本語では「かみなりのような音」と基準マ ーカーが使用されているが,他言語では「かみなりの 音」を聞いた(英語,フィンランド語),「聞こえた」 (ドイツ語)と表現したり,ハンガリー語のように動 詞” feldübörög“(雷が鳴る)を使用して表現している. 語彙的な理由で各言語に相違があることが判明した.  4.3  その他翻訳上の側面 本研究では,日本語の「N のように」が他の言語で同 等部分が表現される例を収集したのみで,英語の”like  N”やドイツ語の”wie N”の形式が日本語ではどのように 翻訳されているかは観察していない.この種の翻訳と文 法表現の相違や問題点は,Stolz  (2007)で議論されている. パラレルテクストの場合,たとえ原典が同じものであっ ても,翻訳者により表現が異なることは先行研究でも指 摘されている.また,自然な言い回しや前後の文脈に合 致させるために,結果的に字義通りの翻訳・表現がでな いことがありうる.本研究に使用した「アルケミスト」 日本語版では,英語の”like”と日本語の「ように」の対 応が多い.これは,翻訳者山川紘矢と山川亜希子が日本 語版のあとがき(A197)で書いているが,原典のポルトガ ル語版からの翻訳ではなく,英語版から日本語に翻訳し ている点にその原因があるだろう.しかしながら,(8)  に示されるような理想的な対応の例は文法に焦点を置く 対照研究には不可欠の観察であり,言語の類型論的な特

徴が翻訳の際に多かれ少なかれ影響するものの,パラレ ルテクスト観察が重要な役割を果たすことも事実である.  5.  結論 本研究では,日本語を基にしたパラレルテクスト調査 から,「N のように」という表現が他の言語(英語,ド イツ語,ハンガリー語,フィンランド語)では,何らか の基準マーカーが存在するとともに,それ以外にも多様 な構文形式を持つことを示した.その多様な,理想的に は対応しない形式に特に注目して,その特徴と原因を考 察した.本研究での調査の結果,適切に翻訳されない場 合,文法的な手段と語彙的な手段があることが判明した. 文法的な手段で表される場合には,前置詞,格,接続 詞,動詞の項選択など,各言語に特有な文法特徴が反映 される.語彙的な手段で翻訳される場合,「ように」の 意味が動詞に組み込まれたり,文全体の構造が劇的に変 更されたりする傾向がある.また,翻訳の段階で自然な 物語の流れを優先する可能性についても言及した. 最終的に,このような翻訳上の選択に関して,特に各 言語の文法的差異や語彙に依存する点と,翻訳者の好み による点があることを主張する.その点に着目すること で,パラレルテクスト研究において理想的でない例を観 察した結果,各言語に内在する機能的差異と語彙的差異 を明らかにすることができた. 参考文献  Cysouw, Michael & Bernhard Wälchli. 2007. Parallel texts: using  translational equivalents in linguistic typology. Sprachtypologie und  Universalienforschung (STUF) 60: 95­99.  Haspelmath, Martin & Oda Buchholz. 1998. Equative and similative  constructions in the languages of Europe. In: van der Auwera, Johan  & Dónall P. Ó Baoill(eds.). Adverbial constructions in the Languages  of Europe. Berlin/New York: Mouton de Gruyter: 277­334.  Stassen, Leon. 1985. Comparison and Universal Grammar. Oxford:  Blackwell.  Stolz, Thomas. (2007) ‘Harry Potter meets Le petit prince – On the  usefulness of parallel corpora in crosslinguistic investigations’.  Sprachtypologie und Universalienforschung  (STUF) 60: 100­117.  霜崎實. 2007. 『星の王子さま』邦訳の表現バリエーション-内 藤濯訳を中心に.「月刊言語」36­4. 特集「翻訳新世紀」:  40­47  野瀬昌彦, & 朽方修一. 2008.  様態表現「N のように」の対照言 語学的分析:日本語,英語,ドイツ語,ハンガリー語とフィ ンランド語のパラレルテクスト研究.  第 11 回日本語用論学会 口頭発表(松山大学) 前田直子. 2006.  『「ように」の意味・用法』.笠間書院.

連絡先 野瀬昌彦,麗澤大学外国語学部,mnose@reitaku­u.ac.jp  朽方修一, テュービンゲン大学大学院アジア地域文化研 究所日本学科,[email protected]­tuebingen.de

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