音圧はメジャーバンドのそれと比べると迫力に欠ける。 演奏も荒々しいし、音もささくれ立っていて、はっきり言って音質も良くない。 だけどインディー盤ってそもそも CD 音源から滲み出てくるバンドの RAW な 雰囲気や世界観、言葉で言い表せない荒い感情だったりを感じ取るのがリスナ ーの楽しみだったりする。そしてそれが醍醐味なのだ、とも同時に思わせられた。 僕が初めてこのCDを聴いた時の印象だ。THE CARBON「Scatter City」は、まさに その種類の欲求を満たしてくれるものに仕上がっている。鬼気迫った感情分裂 感、過度の音楽的成熟からの脱却、そしてなにより一貫してアンダーグラウンド 志向なところが好きだ。 The Carbon 初のフルアルバムは地下密室でぐつぐつと時間をかけて煮込み続け て出来上がったみたいな隠れ家的なアルバムだ。彼らの音楽性への褒め言葉と して敢えて「陰鬱だ」と言うが、それはほんのわずかな希望と強さをはらんだ複 合的な意味でという事だ。 一聴すると UK 影響下のちょっとばかり古くさいロックンロール、全体を通して 聴いてみるとストレートな曲調のキャッチーでポップな曲もある。反面、そうで ないものは徹底的に重く暗い。アルバムの全体の統一された世界観として彼ら、 とりわけソングライター・Kai が提示する The Carbon の世界観があり、曲ごとの バラエティさも持ち合わせた完成度の高さが伺える作品で、この辺りは特に皆 さんにもアルバム全体を頭から終わりまで通して聴いて感じてもらいたい。 もしかすると人によっては入り込みにくいと感じるかもしれない。その理由っ て恐らく根底にあるこの影の部分であり、彼らがフェイバリットとして挙げて いる NIRVANA の閉塞感、THE VINES のささくれ立った感情なのだろう。言い過 ぎかもしれないけど、社会やこの世界と繋がる唯一のツールを音楽としたカー トやクレイグ。そんな立位置に目線を置いて産み落とされた音楽達だという気 がしてならない(無論、彼らはフォロワーには違いないが)。アルバムタイトル「分 散都市」の住人が描く一枚の絵とでもたとえられようか。しかしその絵は一枚の 枠に収まってはいるもののグチャグチャな感情が入り乱れて何千何百もの色彩 の洪水で押し迫ってくる。人の感情は複雑で喜怒哀楽の一言では言い表せない ということ、要するに心情穏やかじゃないし気が気じゃないから時に人を寄せ 付けないのだ。 同じ大学に通っていた Kai(Guitar&Vo)と Stu(Bass)の二人が出会って The Carbon が始動したのが 2002 年。始まりは NIRVANA のコピーバンドだったという。自身
の音楽バックグラウンドを自分なりにソングライティングへ反映させ独特な曲 を製作する Kai の音楽体験は 3 歳で弾き始めたオルガンから。高校生のとき、ビ ートルズ、ストーンズのコピーバンドで初めてステージに立って以来、いろいろ なバンドかけもちするなどしていたが大学生のときに自分の影響でベースを弾 き始めた Stu のバンドへ加入する(彼の作るベースラインは、Kai の影響下であ りつつも、現在は成長著しく目を見張るものがある)。八王子、府中、青山、吉祥 寺、渋谷、新宿など都内ライブハウスを中心に粛々とライブ活動を重ね、幾度と ないドラマー交代を経て、現在はライブにサポート Dr を引き入れ、活動中。 今までにシングル「REASON OF YOU」を無料配布、「BONES HAND」を製作、販売 し、そして今回このアルバムリリースとなったわけだ。
①.5 ROUND DEFEATS 畳み掛けるようなギターとヴォーカル。 頭から足の先まで 3 分ジャストの怒りが一気に駆け抜ける。 終始力強くて一曲全部サビのようなこの曲で幕が開いていく。 ②BONES HAND 前曲からの怒りの余韻を引き継ぐようなイントロギター。 サビでの増幅した力強い叫びが心地いい。 (2007 年末シングルとしてリリース。) ③VOLITION 激しさと優しさ、相反する感情の同居。 精神分裂にも感じとれる歌詞は強い意志と失望が織り交ざってぐちゃぐちゃ。 複雑怪奇な一曲。 ④MANY YEARS 緩やかな坂をちょっとずつ上る主人公。体はだるく、頭上から強く突き刺ささっ てくる雨に打ち付けられても、それでも戻らなければ。何日、何ヶ月、何年かかっ ても。 属すべき場所へ戻る為の歌。アルバムの前半のハイライトだ。 ⑤REASON OF YOU 叩きつけられるように吐き出される歌詞。
ドラム&ベースに被さってくるどっしり重いギターが 心の大きな蠢めきを表している様な始まりを予感させるナンバー。 「あんたの存在意義ってなんですか?」 (2005 年 8 月シングル配布。) ⑥IN THE WORLD 倒れたはずなのにそれでも混沌としてでも起き上がってくるような曲。 でも他の誰かは決して助けてはくれない。鋭いギターフレーズのサイレン(警鐘) が聞く者を急かすけど、立ち上がらせてくれるのは自己の力と意思だけに他な らない。 ⑦A VIRTUAL IMAGE アルペジオから一気に、野太いギターストロークへ。 ドリルでギュルギュルと大穴を開けられて、(仮想) から(現実)へ引き戻されてく ⑧FOR ME 現実にありふれている嘘という言葉全てを嘆いた曲。 後半のギターソロが一つの聴き所となっている。 それと加えて、イントロはポップなのに、重苦しいベースへ転がり込む前半部分 は 聴き所であると同時にこの曲の不可解さを強調している。 ⑨SQUAT(Written by Ryo & Tsuyoshi Tanaka) 眠れなかった長い夜。早朝。顔面蒼白。けだるさ。嫌悪感。頭から出てってくれ。
⑩CANCELATION ACT 後半に近づくにつれ徐々に盛り上がりを見せるアルバムの最終局面。 延々と繰り返される日常からの脱却へと向かっていく展開、 徐々に主人公の心情は高揚していく。 彼らの楽曲では珍しく楽しく明るい曲調で、アルバムのエンディングを締めく くる。
大不況下にある社会世相からか“明るく楽しい曲”が求められて、チャートを 賑わす日本の音楽業界だったりするが、だからこそここ昨今でこういう音を出
すバンドは希有だと僕は思う。夢見がちな世代への「NO 現実逃避」のメッセージ を発している様でいて、実は本人たちはそんなつもりじゃなかったりする、この とらえどころの無い複雑な感じが僕の興味を引き付けた。このバンドの持つ世 界観には僅かだが「希望」の要素もあって、自分の弱さをさらす事を良しとした 彼らの考えとその強さがあるから逆にそれが鮮やかで儚かくて曲の持ち味が際 立っている。 不器用ながらも、こんな古臭い音を鳴らすところがお金儲けに走ってないし、い い意味、ある種の変態なのだと。ストレートな楽曲なのに「なんか分からない」難 解さにもっともっと多くの人の耳がひきつけられ、このアルバムの音達が多く の人の心の琴線に触れることを強く願っている。 Yosuke Nohara