Session9 社会的ネットワーク研究その1
秋吉真衣
”Social Capital in the Creation
of Human Capital” James S.Coleman 最初に述べているように筆者が意図するところは、社会学的な研究の中に経済学 的な合理的行為の原則を取り入れることである。この論文では社会関係資本(social capital)という概念を用いている。 <2つの知的潮流> ① 行為者は社会的規範、規則、恩義によって社会化され、その行為はそれらに よって支配されている。 ② 行為者はおのおの独立に到達される目標を持ち、独立に行動し、まったく自己 利益的なものであると見る。 ↓ 筆者:両方に由来する要素を含んだ社会学理論の方向性を発展させるべき <3つの資本> *物質的資本・・材料に変化を加えて道具を作る、有形性を持つ *人的資本・・・人間が技能や能力を身につけ,それまでとは違った仕方で行為で きるようになる。 *社会関係資本・・・個人間の関係の中に存在する信頼など。 →存在することによって行為を促進または制約する。 <個人にとって有益な資本的資源となりうる社会的関係> ① 恩義、期待、構造 A→期待→B A←恩義←B A は B に貸しがある=A は B に対してパワーを持っている。 依存要素:社会的環境の信頼性・負っている恩義の大きさ ② 情報チャンネル 社会関係を利用して情報を獲得する。 ③ 規範 それによって人は集合体の利益のために行動できる =規範という社会関係資本が人々の公共の利益のために働かせる。 <社会的ネットワークの閉鎖性> 世代間閉鎖性 親と子の関係 世代内閉鎖性 外部との世代内の関係 →行動を監視するなどの効果的制裁=一定量の社会関係資本 =閉鎖性は社会構造への信頼性を生み出す <子供の知的発達にとって大事なこと> ① 家族内社会関係資本=親と子の関係 ② 家族外社会関係資本=親の持つ外部との関係 この2つが次世代の人的資本育成に影響を及ぼす。 <筆者の仮説>
Session9 社会的ネットワーク研究その1
秋吉真衣
① 家族内社会関係資本が高い(親が子に注意を払っている)と子供への教育効果が高 い >データ 一人親の子供の方が両親がいる子供より中退率が高い きょうだいが多ければ多いほど中退率が高い 母親の期待が大きければ大きいほど中退率が低い ② 家族外社会関係資本が高い(親同士がコミュニティの中において社会関係を持っ ている)と子供への教育効果が高い >データ カトリック系学校は他の私立学校より中退率が低い 宗教儀式に多く参加している場合ではそうでない場合より中退率が低い <自分の仮説> コールマンがこの論文を執筆したのは 1988 年、つまりちょうど私たちが生まれた 年である。20 年の歳月を経て家族間やコミュニティ内のネットワークの希薄化が 進み、、コールマンの指摘していたように公共財的な性格を持った社会関係資本は あまり目にしなくなってきている。社会が変われば社会的ネットワーク分析も変化 する。よって私は現代の社会の形態を考慮した上で社会関係資本を考えてみる。 ① 家族内社会関係資本が高いと子供の自立心が低くなる 理由:最近問題になっている Monster parents。一人っ子が多くなり、親は子供に 過剰なまでの世話を焼くようになった。”甘やかし” ”親ばか”な親が増え、子供 の生活や勉学にやたらと口出しするという形態が頻繁に見られる。 子供の自立心=親元を離れ大学で一人暮らしをすると考え、変数としてはコールマ ンが使ったものをそのまま使用する。仮説を支持するものとして 一人親の子供の方が両親がいる子供より大学で一人暮らしをする率が高い きょうだいが多ければ多いほど大学で一人暮らしをする率が高い 母親の期待が大きければ大きいほど大学で一人暮らしをする率が低い コントロール変数を用いて親の所得や住む地域などを考慮する。 ② の場合は自立心と結びつけるのは難しいのでそのまま中退率を見るものとす る。 私の考えでは、コールマンの定めた変数が仮説をうまく説明しているとはどうして も思えない。よって、X の変数を変えて現代の社会形態の中での社会関係資本と教 育効果を見てみたいと思う。 家族外社会関係資本を親が PTA など学校に関係する何らかの役員をしているかし ていないかで判断する。 ② 親が PTA などの役員をしている子はしていない親の子より中退率が低い。 小学校のとき親が PTA などの役員をしている場合はそうでない場合に比べ 子供の中退率は低い 中学校のとき親が PTA などの役員をしている場合はそうでない場合に比べ 子供の中退率は低い 中学校のとき親が PTA などの役員をしている場合は小学校のとき親が PTA の 役員をしている場合に比べ中退率は低い。
Session9 社会的ネットワーク研究その1
秋吉真衣
<社会的ネットワーク研究の社会貢献> この論文を読んだときに最初にピンときたのは”公共財としての性格を持つ社会関 係資本”という言葉であった。社会関係資本は個人にとって重要な資源であり、個 人はそれを創出する能力を持っているが社会関係資本を創出する行為によってもた らされる利益の多くはその行為者以外の人々によって享受されるという。もし皆が 社会関係資本に注目し、共通の規範を持てば地球環境問題を解決できるのではない かと考えた。例えば①の恩義と期待。これは社会的環境の信頼性に依存している が、もし先進国と発展途上国の間に信頼性が生じていれば日本は今技術協力という 投資を発展途上国に行うことが可能である。なぜなら恩義をかけ,その分将来何ら かの形で借りを返してくれるという期待が可能であるためである。次に②の情報流 通可能性。他国との親密な関係による社会関係資本の形成により頻繁な情報共有が 可能となり、より最新の技術情報などを共有できる。③の規範は最も重要である。 集合体の中で指令的な規範(法的拘束力を持った条約など)により皆が全体のことを 考えて行動するようになる。二酸化炭素の排出量を制限を促進する条約は自国の利 益のみを考えた二酸化炭素の排出を制約する。 このように社会的ネットワーク研究の中の社会関係資本を重要視する考えは環境問 題の解決に役立つ可能性を秘めている。よって社会的ネットワーク研究はマクロ的 に見て社会全体に貢献している。
<先生に話してもらいたい点> グラノヴェターの場合では市場取引において弱い紐帯こそがネットワークにおいて 重要であると主張していた。だがしかし今回の論文では親しい紐帯こそがネット ワークにおいて(社会関係資本形成において)重要であると述べている。いったいど ういった場合にどちらの紐帯の方が効果的であるかということを今回の二つの例以 外で示してほしい。